掌

一件目

｢こないださ、近くで殺人事件あったやん怖いねー｣
｢通り魔かもしれんって｣

｢えー？じゃあ誰でもよかったってこと？｣

比較的近場で起きた事件に、地域の住民は敏感になっているようで、

中学生の話題でさえ、大西の事件を持ち上げているほどだった。

｢あれでうちの親がさ、これ持っていけって持たされた｣

クラスの女子が得意気に見せたのは、防犯ベルだ。

一時期大流行した防犯ベルも、今や注目度も落ちてしまい持ち歩く人も減ったこの頃、

流行に乗れなかった人にとっては、やはり新鮮な代物に違いなかった。