プロローグ

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十月だというのに部屋は夏のような湿気が籠っていた。 カーテンがかかっていて薄く光が射し込んでいる。 部屋の中は殺伐としていた。 盗難にあったかのように本や服などが散らかって、奇妙なほど静まり返って、現実感のないような空間。 唯一現実味を思わせるのは椅子に座りながらパソコンを打つ男の姿とその音だけだった。 男の髪は癖毛だからかまとまりがない。 無表情な顔は眼鏡越しに目が細く、鼻は潰れたように平べったく、唇が太い。 着ている白いシャツは途中から朱く染まっている。 朱は濡れていて男の体に張り付いていた。
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