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担任が教室に入ってきて、僕と目が合うと、柔らかく笑っていた。
僕は頭を下げ、すぐに視線を外に向けて、またボーッと過ごした。
目線の先には校門が見える。
――麻樹と一緒に帰ったなぁ――
……切なかった。
大切な人を失うということは、たぶん人生の中で一生残る後悔だと思う。
きっと僕の人生で、これ以上つらいことはないんじゃないか。
授業が始まり、机に入れっぱなしだった教科書を出す。
そのとき、教科書に書かれたきれいな字。僕の名前を丁寧に書いたのは、麻樹だ。
始業式の日、病院で教科書を確認していると、麻樹が教科書を取り、
「優ちゃん、なくしそうだから私が名前書いておくね」
「自分で書くよ。そんくらい」
「ダメよ。だって優ちゃんの字、優ちゃんは読めても、普通の人は読めないから意味ないじゃない」
とケラケラ笑って言っていた。
たしかその後、軽く口喧嘩したっけ……。
「アイツ、失礼な奴だよな……」
フフッと笑いながら自分の教科書に書かれた文字を見る。
本当にきれいに書かれていて……。
僕はなんだかまた切なくなって、両手で顔を覆い、涙を必死にこらえた。
僕の身のまわりには、いつだって麻樹が溢れている。
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