5367人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほら、麻樹の好きなお菓子だぞ」
僕は独り言を言っているわけではない。
僕の最後の恋人、麻樹の墓に話しかけている。
返事はもちろん聞こえない。
墓の周りにはまだ何も供えられていない。
どうやら僕が1番だったみたいだ。
「麻樹、そっちは淋しくないか?」
しゃがみこんで話しかける。
麻樹の返事はもちろんない。
僕は墓を撫でながら笑った。
「あら、優ちゃん?」
後ろから声がした。
「……おばさん」
振り向くと麻樹のおばさんとおじさんがいた。
「早いわね。もう1年すぎたのね……麻樹が亡くなって」
おばさんは麻樹のお墓を見ながら、しみじみと言う。
僕はだまってうなずいた。
麻樹がいなくなって……。
僕はここまでよく立ち直れたなぁと、改めて実感する。
麻樹がこの世を去ってしまった後、僕は脱け殻のようになってしまった。
麻樹がいなくなることは、覚悟できていたはずなのに。
実際に存在するのとしないのではまったく違った。
最初のコメントを投稿しよう!