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次の日、僕は久しぶりに制服を着た。
なんだか、制服がちょうどいい。
入学当時の春は、少し袖があまっていたけど、今ではちょうどいい。
――時間は止まってなんかいない。ちゃんと流れてるし、僕も成長している――
僕は、枕の下にある麻樹の写真に笑いかけて「行ってきます」とだけ言った。
久しぶりの外はなんだか晴れ晴れしていた。
「ってゆーか……寒ぃぃ……」
隣の麻樹の家を見る。
『優ちゃん、おはよう』
麻樹の幻覚を見るのは簡単だ。
なんたって、長年見続けてた姿だからな。
って、なんで自慢気なんだろうな。
「おはよ。麻樹。じゃ、行ってくるな」
麻樹に「行ってくるな」なんて言うのは、初めてだ。
だっていつもは……。
一緒に行ってたんだから……。
僕はひとりで学校に向かった。
ただ、昔みたいに笑って学校に行くことはできなかった。
麻樹と並んで見ていた風景をなるべく見ないように、下を向いて。
麻樹はなんだかずっと僕の後ろで、手を振っていた気がした。
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