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この桜の下で……まだ母さんが元気だったころ、僕によく昔話をしてくれた。
その昔話に、よく登場していたのが、この桜の木だ。
母さんが、父さんと出会った木。
母さんが、父さんからプロポーズされた木。
母さんが僕を妊娠したときに、よく散歩にきた木。
常に母さんの思い出には、この桜の木が寄り添っていた。
だから僕は、この高校を受験した。
僕も母さんのように、この桜の木と思い出を作って行きたかったからだ。
ベンチに浅く座り直し、風に揺れる桜を眺める。
『ごめんね、ハル』
聞こえる。
母さんの声が。
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