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一行が王都へ着いたのはすっかり日が落ちてからだった。
荷ほどきを手伝おうとするエルをロアンが連れだし城の中へと連れていった。
「今夜はまだお客様なのですから客室を準備してありますよ。」
「私は別に…」
「明日の儀式が終わるまではあなたは大事なお客様ですよ。今宵一時はお姫様の気分を味わってください。」
ニコニコと微笑むロアンに言い返す元気もなく、エルは案内された部屋へ入った。
「うわっ」
部屋を一目見てエルは固まってしまった。
クリーム色の壁紙に薔薇色のカーテン、それはいいのだが、揃いのカーテンがついた柱のついたベッドにも、壁にも鏡や机、椅子。全ての家具にピンクや白、赤といった薔薇が絡み付けられている。しかも全て本物の生花だ。
「ちょっとこの部屋は…」
エルが後ずさるとその背中を押してロアンが部屋へと入れた。
「どうです?女性客に一番人気の高い、薔薇の間です。いい香りでしょう?きっといい夢が見られますよ。」
(いい夢というか、息がつまりそう…)
明らかに引いているエルをロアンは面白そうに眺めている。
「では、また明日。よい夢をエルディア王女。」
「はぁ…お休みなさい。」
ロアンの背中を見送ってからエルはため息をつき、バルコニーへ出てみた。
「ここもか…」
白いバルコニーの手すりには薔薇のつるがからめられ、置かれている白いテーブルと椅子にも薔薇が…
「もう薔薇はいいよ」
エルはまたため息をついて手すりに頬杖をついた。見下ろすと中庭が見える。大きな噴水が作られ、向かいの建物のバルコニーが手が届きそうなぐらい近くに見える。
「まぁ今夜1日の我慢か」
背後からさらなる試練が待ち受けているとも知らずにつぶやいた。
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