第五章 そして王女は騎士となる

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「お名前はカシュアさん、でしたっけ?」 若い騎士が目をかがやかせながらきいてくる。 「あ、はい。エルディア・メル・カシュアと申します。」 「僕はクリスです。クリス・ド・ロッジーニ。こちらは兄の…」 「ニコル・ド・ロッジーニ。」 そう言って言葉少なに出された手をエルは急いで握った。 そっと見上げると静かな茶色の瞳がこちらを見下ろしている。 「お二人はご兄弟なのですね。」 二人を交互に眺めながらエルは言った。確かに二人ともそっくりな顔立ちをしている。ブロンドの髪に日に焼けた肌、茶色の瞳。背の高さや体つき以外は瓜二つと言っていいだろう。 「そうなんですよ。僕は今年王宮へ入った騎士候補生なんです。兄さんはもう騎士団に入って3年目なんですよ。」 「4年だ。」 ウィンに目を向けていたニコルがクリスをにらんだ。 「あっ、そうかごめんなさい。」 全く悪びれていない様子のクリスがおかしくて笑っていると後ろから足音が聞こえてきた。 「見つけましたよ、エルさま!」 振り返るとメイドのサラが腰に手を当てて怒った顔をしている。 「昨日、今日は式典があるとお教えしましたでしょう。それなのに朝からお姿が見えないので青くなって探し回ったんですよ!」 「ごめんなさい。早くに目覚める習慣がついていて、つい暇だったからウィンに会いにきてしまったの。」 「もう十分駆け回ったようじゃないですか。さぁ、お部屋へお戻り下さい。まだ朝食も召し上がっておられないのですから。」 エルはサラに引きずられていきながら、ニコニコと手をふるクリスに小さく手を振り返し、先程の老人がウィンを厩舎へ連れ帰ってくれているのに軽く会釈をした。 「全く、一日目からこれでは先が思いやられます。」 ブツブツ言いながら歩くサラにエルはクスッと小さく笑った。 「本当にお母様みたい。」 「え?何かおっしゃいましたか?」 「いいえ、何も。」
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