第六章 東の離宮

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「本当は何を言おうとしてたんだろう…」 つぶやきながら自分をじっと見つめていた彼の顔を思い出して顔が熱くなってきた。 「熱があるのかな、仕事の初日にまずいな。」 エルは頭をふりながら急いで部屋へと戻った。 しかし戻ったもののむせかえるようなバラの香りがかえって落ち着かなくてバルコニーにひじをついて中庭を見下ろした。こんな時早起きの習慣がうらめしい。 「おはようエルディア。早いな。」 突然声をかけられてエルはあわてて身を起こした。 「ギ、ギル。おはようございます。」 さっきまで彼のことを考えていたせいか本人を目の前にして慌てしまった。 「はは、名前は呼び捨てなのに敬語使うの変だろう。前と同じように話せよ。」 ギルにつられて笑いながらエルはバラに囲まれた時よりも激しい息苦しさに胸をギュッと押さえた。
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