第六章 東の離宮

11/49
前へ
/844ページ
次へ
「あんな人混みの中で騒々しく見送りたくなかったんだ。一人静かにここで見送ろうと思っていた。シシーにはばれていたようだがな。」 この言葉にエルはおもわず微笑んだ。 「彼女にはいくつもの目があるんでしょう。」 「ああ。なんでもお見通しだ。」 ギルも笑いながらエルに持っていた旗を渡した。 「最後にまた話せて良かったよ。今朝はだいぶしぼられたんじゃないのか?」 「ええ。サラにたっぷりとお小言をいわれました。」 エルは旗を受け取り、風にはためく様子をじっと見上げた。 「時々…」 「え?」 ギルが珍しく小さな声で話すのでエルは旗から目を離して聞き返した。 「時々、手紙を書いてもいいかな?心配なんだよ。なかば強引に連れてこられた君があちらでどう過ごしているのか。」 「大丈夫ですよ。私、人に振り回されるのには慣れてるんで。でも…。」 エルは真っ直ぐにギルを見つめる。 「ご心配をおかけしないようにちょくちょく手紙を書きますね。」 その言葉にギルは本当にうれしそうにうなずいた。
/844ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4125人が本棚に入れています
本棚に追加