第六章 東の離宮

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(変だ、変だ、変だ。) エルは華麗に手綱を操りながら胸を押さえ、冷たい風に赤らんだ頬を冷やしてもらう。 (手にキスをするなんてあいさつなんだから。女の子扱いに慣れてないせいだきっと。) 考えながらも頭のどこかでそれだけが原因ではないのでは…と疑っていた。 「と、とりあえず。今は職務に集中しなければ」 声に出して自分に言い聞かせてから背筋をピンとのばし追い付いた隊列を風のように追い抜き姫君の馬車の横にピッタリと着いた。 「早かったのね。エル。」 シシーがカーテンを半分開けて声をかける。 「なんだか顔が赤いわ。」 「急いで駆け戻ってきたものですから。」 エルはシシーと目を会わせないように忙しく手綱を操るふりをする。 「そう、ご苦労様。」 シシーは何もかも見抜いているかのようにおかしそうな表情をうかべてからカーテンを閉じた。
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