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カロフという例外はいるものの城内は新婚の二人の暖かい空気に満たされており、リディアはその美貌の他にも大臣たちも舌を巻くほどの賢さで着実に周りの信頼を集めていた。
カルティスはリディアの為に新たな庭園を作り、彼女がロイド王国で愛し育てていた花を植え、二人は早朝や日暮れ時にゆったりとその庭園をそぞろ歩くのが習慣となった。
「私は長いこと君が私の元に来てくれる日を待ち望んだ。」
「長いことと言っても半年ほどではありませんか。」
リディアはからかうように笑う。
「いや、初めて会ったあの日から待ち続けていた。」
カルティスはそこで口を閉じ、リディアの手をそっと握りしめながら落ちていく太陽を眺めている。
「私は、あなたのお側にいて恥ずかしくない妻になれるよう日々励んでおりました。」
カルティスが再び口を開こうとしたときに、邪魔者が一匹舞い降りた。カラスだ。濡れたように黒く広い翼、大きな嘴、凛と輝く瞳の立派なカラスだった。リディアは木の実をついばむカラスを見て、クスクスと笑った。
「どうした?」
「ロイド王国にいるころ、カラスを見てはあなた様を思い出しておりました。」
「真っ黒だからか?」
カルティスは髪を引っ張りながら
尋ねる。
「ええ、黒く、威厳があります。歌は上手ではありませんが。」
「ひどい言われようだな。」
カルティスは苦笑いを浮かべる。確かに高い音程の歌が多いラグストで深みのある低い声のカルティスは不利だ。
「しかし人を説得したりするにはこの声のほうがよい。歌を歌わねばならぬときは君が代わりに歌ってくれ。」
「ええ、喜んで。」
リディアはその場で歌いだした。一日の終わりにその日を感謝する歌を。カルティスも小さな声で口ずさみ、やがて笑いだした。
「やはり下手だ。」
カラスが一声鳴いて飛びさる。
まるで二人を邪魔だてしないでやろうというように。
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