第六章 東の離宮

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「誘拐…」 「そうなんですよ。しかも我が家にやってきてから。おばが不安に思うのも無理ないですよね。」 アメリアは考え込むようにじっとしている。 「サムは…あっサミュエルのことなんですが、彼は始め私がおばの言いなりになっていると怒っていました。でも私は新しい環境を結構楽しんでいたんです。お嬢様扱いされるのにはうんざりしていたし。おばは母をそれは大事にして遠くから腕のいい医者を呼び寄せたりもしてくれましたから。それで満足だったんです。彼も最後には納得してくれました。渋々といった様子でしたがね。」 「それからあなたはずっと男の子として暮らしていたの?」 「はい。ドレスやスカートを着るのは母を見舞う時だけでしたね。」 「そう。…あなたの産みの親というのは?」 「知らないんです。母はあまり話したがらないし。私もあまり探り回るような事はしたくなかったので。」 ようやく食事を終えたアメリアを見てエルはたちあがり、膝に落ちたパンくずを払った。 「さて、戻りますか。」 相変わらずエルを不思議そうに見上げている彼女にニコッと微笑んでからテントへ向かって歩き出した。
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