第六章 東の離宮

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翌朝、エルは普段より少し青い顔をしながら馬に揺られていた。 「顔色…悪い。」 朝一番に出会ったアメリアにも指摘され、エルは笑顔でごまかしつつも内心は色々な思いがうずまいて大変なことになっていた。 「は~」 ため息がこぼれるとすかさずセシリアが鋭く突っ込んできた。 「ちょっと、ため息。今日何度目よ。」 「すみません。」 「落ち込んだ声で謝られてもしゃくにさわるだけだわ。」 セシリアの言葉にエルは首をかしげる。 (私は落ち込んでいるのだろうか?ならば何故?ギルが王子だと知ったから? いや、彼が王子だろうと農民だろうと私には関係ないはずだ。) 「ひょっとして恋煩いとか?身分違いの恋にでもおちちゃった?」 いつの間にかそばにいたカイトが楽しそうに言った。 「またカイトはくだらないことを。」 セシリアは鼻で笑いながらカイトを押し退ける。 (恋煩い?いやいや、まさか。私がギルに恋?王子様と素性の知れぬ娘なんて身分違いもはなはだしい。) 「いや、まずもって恋煩いじゃないし。」 いつの間にか口にだしてしまった言葉にセシリアは 「ほら、違うじゃない。」 と満足気に言い。 「素直じゃないな~」 とカイトが茶化す。 「本当に。素直じゃないんだから。」 馬車のなかではシシーも小さくつぶやいていた。
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