第六章 東の離宮

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釈然としないままエルは馬に揺られていた。日は高く辺りは見渡す限り平原が続いている。 「間もなく離宮につくわ。」 シシーが喜びを隠せないというように窓わくに両手をかけその上にあごをのせる。 「シシーさま、またサラにしかられますよ。」 「大丈夫、今寝ちゃってるの。」 二人は時折言葉をかわしながら道を進んでいく。風は暖かく花の香りをのせていた。ちょうどエルがシシーの言葉に笑い声をあげたとき、彼女がその華奢な腕をまっすぐに伸ばして斜め前を指さした。エルはさっと目を向け、そして息をのんだ。キラキラと輝く大きな湖の真ん中に、塔が7つもついた大きな城がたたずんでいたのだ。その美しい光景はエルの胸に感動というよりはざわざわとした胸騒ぎを運んできた。 (おかしい、なぜだろう…なんだか落ち着かないような不思議な感じがする。) 「どうかした?」 シシーはエルをじっと見つめながら尋ねた。 「いえ、なにも。綺麗な城ですね。」 「やっと戻ってきたわ。なんだかものすごく長い間留守にした気がしてしまう。」 無邪気に笑うシシーにエルは無理やり作った笑顔を張り付けた。心臓はなぜかドキドキと激しく、頭のどこかで誰かが逃げろと警告しているような気がする。本当にエルはすぐにでも回れ右をして来た道を戻りたくなった。しかしそれが何故なのかは自分でも分からず頭は混乱するばかりだ。
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