第七章 沈めた記憶

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離宮について3ヶ月。初めは不安感が薄れずに困っていたが、新たな生活に馴染み始め徐々に落ち着いてきたようだ。生まれ育った町を離れ、慌ただしくここまで来てしまったがエルの心に後悔はなかった。 それでも時折…ウィンの背に乗って馬術の練習をしている時、シシーの散歩のお供をしている時、長い廊下を歩いているとき、それはやってくる。 エルの背筋をなぞり、耳にそっとささやく。 「逃げろ」 と。 勢いよく振り返ってもいつも誰の姿もない。 エルはただ腕をさすりながら背筋を正して何事もなかったようにふるまうしかないのだ。
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