第七章 沈めた記憶

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彼女の様子がおかしいという噂は人づてに王都まで流れてきた。 といっても格別に重要視されたわけではなく、人の口に登ってすぐにさらりと流される程度だった。数人の人物をのぞいて。 「私、シンシアに会いに行こうかしら。」 サンディから噂をきいた王妃は嬉しそうに言う。 「ずるいぞ、私も行きたい。」 国王が抗議の声をあげる。 「あなたは公務が山のようにたまっているんだからだめよ。」 「ジョナスにやらせるよ。あいつも次期国王として勉強しなければ。」 「お断りしますよ。僕は母上の警護につきます。」 いつの間にいたのかジョナス王子が二人の後ろにいた。 「いいえ、二人ともお留守番です。警護にはギルを連れていくわ。」 「「また、あいつばっかり。」」 不満顔の男性陣の前で妃は指をふってみせる。 「当然でしょ。普段ちっとも感情が表にでないあの子の面白い姿が見られるんだから。」 ころころと笑う妃の前で二人はちょっとギルを哀れに思ったのだった。
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