第七章 沈めた記憶

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「知らなかった。」 エルはニコルの背中を見送ってから小さくつぶやいた。 今聞いた話しが何故こんなにも胸に突き刺さるのかも分からず、苦しそうにニコルに背を向けて歩きはじめた。 ひと足進むにつれて心臓の音が高まる。 (悪いことばかり起きる。自分に関わった人間は不幸になる。) 視界が曇り、見えている世界がぐるぐると回り始めた。吐き気と頭痛が一気に遅いかかり、エルは片手を壁につき反対の手で目をおおった。そのままズルズルとしゃがみ込む。 (不幸になる。 崩壊した。 今は亡きラグスト王国。 ラグスト王国。) 「ラグスト王国…」 黒い闇に包まれる瞬間。誰かの大きな手に背中を支えられた。エルは霞んだ目をこらしながら顔を上げる。 「ギ…ル?」 声は闇に吸い込まれていった。
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