第七章 沈めた記憶

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エルは目を閉じ必死に思い出そうとしたが何も出てこない。 「分からない。何なの、一体。」 めずらしく苛立ちを覚えて頭を抱え、乱暴に髪をくくっていた髪留めをはずした。 「呪文はいらないんだ。ただこうしたいと望めばいい。強く望めばね。」 突然聞こえた声は先程とは違う声だった。 (見たい。私はこの闇の中を見通したい。) 手を握りしめ、唇を噛んで念じてから大きく目を見開く。ざあっと暗幕を開いたように激しい風と共に闇が引いた。 「なんだよ。ずいぶん時間がかかったな。」 目の前にはいつもひょっこりやってくるカラスが羽根をばたつかせている。 「なんだ。カラスか。」 「おい、なんだとは失礼な。それにな、俺にはクロシェーヌって立派な名前があるんだよ。」 「クロシェ-ヌって女の子みたいな名前。」 エルが笑っているとカラスは自分の羽根でエルの頭を叩いた。 「何言ってんだ。俺みたいな色気満点のメスをつかまえて女の子みたいだと!」 「えっ!メス。」 「もちろん、オスに見えるか?この美烏が。」 「オスだと思ってた。」 ポツリとつぶやいた言葉にカラスは今度はけりを入れた。 「失礼な。そういう奴はもう置いていくからな。」 サッと空高く舞い上がったカラスを頭をさすりながら見上げる。青い空の中でカラスは小さな染みのように見える。 「いい天気。……ん?おかしい。いつの間に朝に…いや、外へ出たんだろう。ここは…」 空から目を離し、辺りを見回す。 「ここ、家だ。」 背後には見慣れた屋敷が。目の前には野原が広がっている。 そこはサラたちが暮らすカシュア家の敷地だった。
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