第七章 沈めた記憶

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呆気にとられて家を見上げていると背後から誰かが駆け寄ってきた。急いで振り返るとサーシャが泣き顔でこちらに走ってくる。 「サーシャ。」 エルがうれしそうに叫ぶが彼女は横をすり抜けて大きなモミの木の下に駆け込み突っ伏したまま泣き声をあげている。 「サーシャ、一体どうしたの?」 エルが声をかけても振り向きもしない。 「サーシャ、いい加減に泣き止みなさい テラスから声がした。振り向かなくてもわかる。サンドラおばの声だ。 「おかしな子ね。昨日まではあんなにあの子のことを怒ってたじゃないの。隣国の王子とのダンスは自分が選ばれるはずだったのにって。」 「だって、だって、いなくなっちゃうなんて。こんなにすぐに… お母様がいけないのよ。あんな怪しげな男の話しに乗ってサインなんかするから! エルが怪我をしたらお母様のせいよ。 エルは私の大切な…大切な…………友達だったのに。」 「あら、下僕の間違いじゃないの?」 サーシャはサンドラを睨みつけると泉の方へ走って行ってしまった。 「困った子ね。」 サンドラは腕組みをしてその後ろ姿を見送った。 「自分があの子に利用されていたとも知らずに。」 そして静かに家の中へと入って行った。
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