第一章 崩された王国

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カロフが旅立った後の数日間は慌しかった。 すぐに国中に散らばっている兵を呼び集める使者をだし、カルティスは一息つこうとした。 「例えサイモンでもこれだけ離れた我が国に攻め入るにはまだ時間がかかるだろう」 その時に備えての策を考えねばと思っている矢先に侍女が飛び込んできた。 「お生まれになりそうです。」 「医者は?」 「すでにお側に。お急ぎください。」 カルティスがリディアの元に駆けつけると辺りは忙しそうに行き交う侍女でいっぱいだ 「リディア様はお忙しいでしょうからお呼びしないようにとおっしゃったのですが…」 「妻が痛みと戦っているときに他の事を考えていられるものか。」 カルティスはリディアの枕元へ行き手を握って励ました。 何時間いや何日もに感じるほど長くかかったように思ったが、やっと赤ん坊の泣き声が響き渡ったのは日が沈んだころだった。 「夜の闇を照らす月のような美しい姫さまでございます。」 手渡された我が子をカルティスは恐々とその手に抱いた。 「君に似た美しい姫だ。金髪になるといいんだが」 「いいえ。」 リディアが笑いながら答えた。 「輝くような黒髪になりますわ。」 二人は生まれたばかりの我が子を互いに覗きこみながら幸せに顔を輝かせていた。
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