第一章 崩された王国

18/24
前へ
/844ページ
次へ
「兵の指揮はサイモン様が直々になさっているようです。」 「バカな!」 部屋を飛び出し廊下を急ぐカルティスを家来たちが急いで追いかける。 「陛下、緊急配備につきますか?」 「今城に残っている隊だけで何とかするほかないだろう。カロフや応援に向かっている者たちに至急伝言を飛ばせ。」 「陛下、ロイドの兵が、跳ね橋を渡りました。」 カルティスは驚きのあまり動きを止めた。 「そんなバカな。誰が跳ね橋を下ろしたのだ?なぜこんなにも早く風のように現れたのだ…」 装備を身に付け指示を出しながらもカルティスは混乱していた。 「陛下、我が兵の数は圧倒的に足りません。」 「諦めるな。門は固く閉じられているか?」 「はい、外では第1~第7部隊が敵を食い止めております。」 カルティスは腰に剣をさし部屋の扉に手をかけた。 「女、子供は隠し通路から脱出させろ。もちろん妃と姫もだ。」 「陛下…」 カルティスは窓の外を眺めた。跳ね橋は破壊され、向こう岸には加勢にきたと思われる街の男たちの姿がある。急いで窓から離れるとリディアの元へと向かった。 「カルティス様」 リディアの部屋ではメイドたちがバタバタと準備に追われ、リディアだけが落ち着いているようだった。 「リディア、姫を連れて一時この城から離れてくれ。」 鎧に身をつつんだカルティスの顔を見上げながらもリディアは涙を流さなかった。メイドたちはこの世の終わりだというように涙を流しながら取り乱しているというのに。 「一時ですか?」 「ああ、一時だ。」 カルティスは言いつつも彼女の澄んだ瞳を避けるように赤ん坊を抱いているサラに目を向けた。 「彼女を頼むよサラ、まだ動き回れる状態ではないのは分かっている」 しかしリディアはその言葉を打ち消すように立ち上がり、赤ん坊をサラから引き取った。カルティスは眠っている赤ん坊の額にキスを落とし、リディアを抱きしめた。 「名前は女ならばエルディアだったな。」 カルティスの言葉にリディアは微笑んだ。 「エルディア。」 二人は赤ん坊を見下ろしながらささやきあった。 「たくさんの人に願われ、望まれて生まれてきた私たちの娘。父親ゆずりの賢く勇気ある姫に育ちますように」 「母親のたぐいまれなる美貌と賢知を譲り受け、立派な一国の王となりますように。」 「「数多の幸せが降り注ぎますように。」」 カルティスはリディアの悲しみに染まった目をじっと見つめ、震える唇に口づけをして部屋を飛び出した。
/844ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4125人が本棚に入れています
本棚に追加