第一章 崩された王国

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リディアはカルティスが出ていった扉を見つめたまま動かなかった。 「リディア様、」 サラがリディアの肩にマントをかけ、隠し通路へとつながる暖炉の方へ導こうとした。 「私は最後に参ります。みな先にお逃げなさい。」 「しかしお妃さま…」 「早く!」 リディアの真剣な声に押され、サラ以外のメイドや、護衛の兵が暖炉の奥へ消えていった。 「サラ…私はサイモン叔父様の元へ話をしに行きます。」 「そんなリディアさま…」 サラはリディアの発言に青ざめ、首をふったがリディアの目は真剣そのものだった。 「この体では皆の足手まといになるだけです。ならばいっそ事の始まりを正すのが私の役目。 この子を」 そう言ってリディアは抱きしめていた赤ん坊をサラに差し出した。 「この子を守ってちょうだい。 ワガママな願いだということは分かっています。 でもあなたにしか、あなただから頼めるのよ。」 「一緒にお逃げください。リディア様もエルディア様も私が精一杯お守りいたします。」 「いいえダメよ。この子がカルティス様の子だと分かればどんな目にあうか… 私がこの子を連れて逃げるのは危険すぎます。」 「リディアさま」 「さあ早く受け取って。離れがたくて決心が揺らぎそう」 リディアはサラのうでに赤ん坊を渡し、彼女を暖炉の方へ押しやった。 「リディアさま、降伏すればサイモン様はあなた様を決して殺しはしないはず。私も一緒に。」 「いいえ、エルディアを逃がすのが先よ。」 「ならば警護の兵にエルディア様を…」 「私はあなただからエルディアを託したの。 他の誰にも託すつもりはありません。」 「リディアさま…」 「さあ逃げてちょうだい。エルディアを、エルディアをどうかよろしくお願いします。」 サラは涙を流しながらリディアの手をとり、強く握る。 「どうか、ご無事で。」 そして暖炉の奥をくぐり抜けた。 リディアは自ら隠し通路を閉ざし始め、サラは振り返ってその姿を目に焼き付けた。 「きっとカロフがきてくれるわ。」 ニッコリと微笑みを残して通路は閉ざされた。
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