第三章 王宮へ

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太陽が沈み始め、辺りはまぶしいオレンジ色に染め上げられていく。 先程までさんざん響きわたっていたサーシャの声が急に聞こえなくなったと思うと控えめなノックが聞こえてきた。 「どうぞ。」 サラが声をかけるとエルがそっと顔をのぞかせた。 「エルディア、どんな姿か見せてちょうだい。」 エルは少し照れたようにこそこそと部屋へ入った。 「まぁ…」 サラは目を大きく見開いて言葉を失った。 エルの希望で余計なひだかざりがほとんどつけられていないシンプルなクリーム色のドレスには襟元や裾に金糸の刺繍がほどこされ、エルディアの雪のような肌を引き立てている。 黒く短い髪はきれいにまとめられこぼれんばかりの白い小さなバラが耳の後ろに飾られ、髪の短さをごまかしている。 照れたように上気した頬は薔薇色で、メイドたちが大喜びでほどこしてくれた化粧のせいか青い瞳がいっそう際立て見える。 「まぁ、まぁ本当に。」 (リディアさまにそっくりだわ) サラは言葉を飲み込んでから笑顔をエルにむけた。 「本当に綺麗よ。」 エルは自分の姿を見下ろしながら首をかしげる。 「こんなドレス久しく来ていないから破いてしまうんじゃないかと心配なんだけど…」そして自分の失言に気付き慌ててごまかした。 「いや、ほら。いつもは練習のためにズボンでいることが多いから。」 そしてふとサラの顔を見て表情をくもらせた。 「お母様、大丈夫?顔色がよくないようだけど…」 サラが返事をする前にサンドラの呼ぶ声が聞こえてきた。 「さあ、早く行きなさい。置いていかれるわよ。」 エルは心配そうな顔をして何度も振り返りながら部屋を出ていった。
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