第三章 王宮へ

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一時間以上は走っただろうか…突然馬車がガタンと止まってしまった。 「何かしら…」 エルは気まずい空気から逃げ出したくて急いで立ち上がった。 「見てきます。」 扉を開けて馬車から降りると御者が馬をなだめていた。 「すみません、馬が飛び出してきた猫に驚いて…」 エルは安心して馬車に戻ろうとすると、サーシャが窓をあけてエルを呼んだ。 「ハンカチが飛ばされたの。取ってきてちょうだい。」 さされた方を見てもハンカチは見当たらない。 「あの草むらの辺りですか?」 「ええ。」 エルはドレスを汚さないようにとスカートをたくしあげて草むらへ入っていった。 日も暮れているので暗くてよく見えないがとにかく奥の方まで入って探した。 「ああ、これか。」 しばらく探していると白いレースのハンカチが見つかった。エルはそれを拾い上げて馬車の所まで戻り始めた。しかし 草むらを出て道に出ても馬車の姿が見当たらない。エルはうろうろと道の先の方も探したがその姿はこつぜんと消えていた。 「やられた。」 しばらくして状況を把握したエルはそうつぶやいて道沿いにあった低い塀の上に腰かけた。 「めずらしく優しいからおかしいとは思ってたのにな~」 ぼんやりと塀に座ったまま家まで帰るにはどれぐらいかかるかな~と考えていた。 (お母様の具合も悪そうだったし今から帰れば久しぶりにお母様とゆっくりお話をしたり看病できる。) エルは立ち上がりスカートをはたくともと来た道を戻り始めた。
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