第三章 王宮へ

10/34
前へ
/844ページ
次へ
「お嬢さん、お城はそっちではありませんよ。」 歩き出したエルに突然声がかけられた。 「へ?」 振り向いたエルの目に以前、泉で出会った老人の姿が映った。 「あなたはあの時の!いったい何故こんなところに?」 「お嬢さんこそ、何故こんなところにいるのですか、舞踏会へ行くのでしょう?」 「ええ、まぁ。でもやっぱり帰ろうと思って。」 「もったいない。せっかくそんなに美しいドレスを着ているのに。」 エルは首をかしげながら笑った。 「ドレスはまたいつか着れますから。それに私にはドレスよりシャツとズボンの方があってるみたいです。」 「確かに泉でお会いしたときのお姿もお美しかったですが…そういえばお母様の具合はいかがですか?」 歩き始めたエルの横を老人はゆったりと付いてくる。 「あまりよくないんです。この冬を越えられるかどうかもわからなくて。」 エルの言葉に老人の顔つきがはっと変わった。 「あなたはこの馬をお使いなさい。」 「えっ馬?」 老人の言葉に驚いて顔をむけるといつの間にかエルの手に手綱がにぎられていた。 「へっ何?いつの間に…」 驚きながら見上げると馬の優しい目がこちらを見下ろしている。急いで辺りを見回したが老人の姿は消えていた。
/844ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4125人が本棚に入れています
本棚に追加