第十九章 魔力を持たぬ者たち

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「本当に信じられるのか?」 天蓋から充分距離をとってからフィルが口を開く。 「彼女を信用できない?」 ジョナスは自分の判断を疑われたことに怒ることもなく、相変わらず穏やかな顔で問い返してくる。 「息を吸うように嘘をつくことができる女だ。」 「確かにそうかもしれない。でも、彼女だって、疑っているんじゃないかな?僕らが本当に自分の味方になるかどうか。 自分たちのことを信じて欲しかったら、まずはこちらが彼女のことを信じなければね。 彼女の証言はサラたちが持ってきた情報と一致しているし、彼女が今ロイド王国へ行きたがっているなら共に行動する方が無駄に探りを入れ警戒し合う時間が省けるよ。」 フィルは小さく肩をすくめた。 「護衛の2人には気の毒だが、確かに野放しにしておくよりはいいか。 こちらはいよいよ、現場に向かわなければいけないしな。」 ジョナスはスッと真面目な表情になり頷いた。 「彼女も少し休む時間が必要だろう。三日後に、あちらはロイド王国へ我々はラグスト王国の外れへ出発しよう。」 「どちらかというと休息が必要なのはチビの方の護衛だろうけどな。」 「ジョンだ。名前を覚えてあげておくれ、フィル。」 苦笑いを浮かべるジョナスにニヤリと笑みを返すとフィルは仲間に合図を送る。 「せめて、ここにいる間だけは2人を休ませてやろう。 他の者にとっても心を無にする良い訓練になる。」 ちょうど遠くからルタが苛立つ声で天蓋から2人を追い出しているような声が聞こえてきた。 ジョナスも賛同するように小さく頷くと思いを馳せるように森の木々の向こうラグスト王国の外れへと目を向けしばらく足を止めていた。
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