第十九章 魔力を持たぬ者たち

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ルタは豪華な天幕の中で1人になるとようやく伸び伸びと体を伸ばしていた。 端から見ていたら、傍若無人に振る舞うわがまま女に見えるだろうが舐められないためにも、わざとそう振る舞っているのだ。 気を緩めている時など、一瞬たりとてない。 彼女は、荷物から手に入れたばかりの櫛を取り出しその美しい細工をそっと眺める。 あの馬丁はうまく城から追い出されただろうか… もはや戻る気持ちはなくなったあの城に残して行くのが心残りであの時一芝居うったのだ。 彼はルタの愛馬をずっと世話し続けていた。生まれつき目が見えずそんな彼だからこそ何となく他の者より心を開いて接していた。 彼が湖に落とした荷物にはクロードの監視魔術が巧妙に紛れ込ませてあったのだ。 気に入りの櫛や化粧品、ルタが必ず持ち歩く母の形見の鏡、その全てにそれがつけられていることにもうずいぶん前から気づいていた。 でも、気づいていることを悟られないように振る舞い続けていた。 おそらく、自分の魔力は強くなりすぎたのだ。 あのクロードにも隠せるほどに。 馬丁には充分な金を渡した。彼が裏切らなければクロードは真相に気づかないだろう。 特に今はルタに構っている暇はないだろうし。 チリッと胸が痛む。スッパリ切り捨てたはずなのに。 こんな惨めったらしい自分に嫌気がさす。 ここまでの旅はいつもよりもひどく疲れ、眠くて仕方がない。 ルタは枕元に櫛を置くとそっと目を閉じた。 緊張を解く気はなかったのに、あっという間にいつもより深い眠りへと吸い込まれてしまった。
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