第二十章 調整者の苦悩

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町の片隅にひっそりとある診療所。 高齢の女性治療師が一人で開いているというそこでミリア女王は何度も世話になったらしい。 最近そこに転がり込んだ娘がクロードの子飼いの部下だと聞き、一応様子見にやってきたのだが… 「ちょっと、埃をたてないようにやってよ。 診察前の清掃を済ませたばっかりなんだから。」 「無茶言うなよ、このボロボロの扉ちょっと引っ張るだけで木が剥がれるんだぞ。」 どうやら入り口の扉を取り替えようとしているらしく十七班の騎士であるジョンとケンが例の子飼いの娘に怒鳴りつけられている。 「おやおや、最近報告が疎かになっていると思ったら。 何をやってるんでしょうね〜あの二人は。」 面白いのでそのまましばらく覗いていると、ゆっくりと杖をつきながら一人の老婆が姿を現した。 「なるほど、これは手強そうな…」 一見話しかけやすそうな柔らかな雰囲気ではあるが、一筋縄ではいかない貫禄もある。 ミリア女王の出産に際して国が選出した医師たちが彼女のサポートにあたっているが、一人ぐらい気心知れた者もいた方が良いだろうと様子見ついでに子飼いの娘を追っ払い、治療師に誘いをかけにきたが… しばらく木陰でくつろいでいると音も立てずにケンがやってきた。 「やぁ、君たち彼女の部下に鞍替えしたの?楽しそうにしてるじゃない。」 今度こそ無事にライティス王の継承者を発現させなければとかけずり回っていた身としては嫌味の一つも言いたくなってしまう。 まぁ予想通りケンは顔色ひとつ変えずにただ首を振って否定した。 そこから素早く報告がなされ、トゲトゲしていた気持ちも少し収まってきた。 「彼女、本当にクロードの元から離れるつもりなのかな?」 「離れる気持ちは本当のようです。ただ、実際に可能かどうか…」 スッと一歩近づくとささやくようにソレを伝えてきた。 ヒューっと思わず口笛を吹く。 これはこれは、予想外だ。 しかし、まぁよく考えてみたら当然の展開なのかもしれない。因縁深いあの二人の事だから… 「情報は確かなんだろうね?」 肯定の意味で頷く彼の後方でこちらに気づいた老婆が杖を着いた姿勢のままジッとこちらを向いている。 目には映っていないだろうに、見透かされている気がする。 面白い、せっかく来たんだ。彼女とも話がしてみたい。 スキップするような軽い足取りで僕は彼女の元へ向かった。
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