第二十章 調整者の苦悩

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ロアン・ディールが診療所にやってきた。 何となくこうなるんじゃないかと思ってた。 先生と向かい合ってテーブルに座った奴に顔をしかめつつ淹れたての紅茶を置く。 奴は嫌味な笑顔を向けながら私の顔色が悪いとわざとらしく心配してみせる。 気色悪い。 先生がすぐに奥で休んでいるように声をかけてくれたのでさっさと寝床のある部屋へ引っ込む。 枕に頭を預けて目を閉じるが込み上げる吐き気がおさまらず、壁に背を預けて座り膝に手をのせてそこに額をあてる。 そうすると少しはマシな気がする。 目を閉じながら吐き気を忘れようと思考を巡らせる。 私の顔の傷を最初に治療してくれた人。 いつもだったら清潔そうでも着古した服にしわしわの手、白く濁った瞳を持つその人に顔を触られるなど決して許しはしなかっただろう。 あの時はひどく動転していたからなのか、彼女の手が暖かく人を癒すことに慣れている様子だったからか、心の声がただ優しく心配する声だけに満ちていたからなのか… 自分でも驚くほどされるがままになっていた。 城を出て最初の目的地に選んでおいたのが彼女の診療所だったのも、もう一度会いたかったからだ。 会ってもう一度確かめたかった。 彼女の手が本当に暖かかったのか。 診療所に来る前にフレッシャー王国の者たちに拉致されて余計な寄り道をしたけどそれはまぁ予想していたことだったからいい。 予想外だったのは自分の体調が今までになく安定しないことだ。 ある日は気持ちが悪く、ある日は眩暈がする。悪寒や怠さ、立ちくらみに悩まされて診療所にたどり着くにもかなり時間がかかった。 あのジョンでさえ、体調は大丈夫かと声をかけてきた。 そうしてたどり着いたここに居ることを許され、食事を摂り眠るようになってから体調はかなり回復していた。 終始何となく気持ちが悪い気はするがそれはあの二人に張り付かれているからに違いない。 そう思っていた。 あの夜彼女、いや、先生に呼ばれるまでは。
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