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「ルー、体調はどうだい?少しは良くなったかい?」
体調が悪いことなど一言も話してないけど先生が知っているのは当然だと思えた。
「だいぶ良くなりました。
今はなんとなく気持ちが悪いくらいで。」
私の言葉に先生は何度か頷きながら私の手をとる。
相変わらず暖かく、何故かホッとする手だ。
シワとシミだらけのくすんだ肌の色。
でも肌質は滑らかなで、蛇のように盛り上がった血管もツルツルしている。
私もいつかこんな手になるのだろうか。
そんなのは真っ平だと思うような、こうなりたいと思うような…
私にはまだ…分からない。
「そうかい、だいぶ落ち着いてきてよかった。で、どうするね?」
「どうって?」
何故だろう、嫌な予感がして私は彼女の思考を聞かないようにし、口ごもってしまう。
「薄々気づいてるんかなぁと思うたがね、ルー。
アンタお腹に子供がいるよ。その相手から逃げてきたんじゃないのかね。」
「子供…」
先生の言葉に絶句するしかなかった。
「まぁ、あまりのんびりはしていられないがきちんと考えるといい。
どうするにしてもできる限りのことはこの婆が協力するよ。」
そんな優しい言葉もすぐには頭に入ってこない。
フラフラと寝床へ向かい無意識に横になる。
枕に頭をつけてグルグル先生の言葉が回る。
(子供?私に?この身体に?)
「なんでこんなタイミングで…」
離れるって決めたのに。一人で生きるって決めたのに。
喜びより先に戸惑いに支配され…気持ちの整理がつかないまま今日にいたる。
そして最悪なことにニコニコと診療所に入ってきたロアン・ディールは私に気づくと真っ直ぐに視線を向けてにこやかにお辞儀をしてきたのだ。
(こんにちは、お嬢さん。おなかの子は順調かな?)
わざわざ心の声でそう語りかけてきながら。
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