第二十章 調整者の苦悩

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「子供がいる!?」 アホ丸出しの声をあげて飛び上がるバカと対照的にケンは黙ってこちらを見ている。 おおかた、あのイケすかないやつにこの事をバラしたのはこっちに決まってる。 癪でたまらないけどロアン・ディールの登場で私の心は決まった。 「なっ、え!大丈夫なのかよ?」 くだらない事を聞いてくるバカの大丈夫には多分二重の意味が込められているのだろう。 私の体調とこの子の父親、クロード様がどう考えるか… 「知らないわよ。大丈夫かどうかなんて、なるようにしかならないでしょ。」 吐き捨てるようにそう言い放つと私は診療所を出る。 最近は朝が一番調子がいい。早く水汲みや畑仕事を終わらせておきたい。 そう思ってバケツを手に取ると、後を追ってきたバカに奪い取られる。 「お前、こんなん俺がやるよ。何だよいつも指図ばっかするくせに。 重いもん持とうとすんじゃねぇよ。」 そうして言い返す間もなく井戸へと走って行った。 バカは本当にバカだった。 畑仕事も掃除も洗濯も料理も。 全くやるなとは言わないけど少しでも負担になりそうな事をやろうとすると飛んでくる。 「うざいんだけど。」 冷たく言っても。 「うるせー、黙って豆の筋取りでもしてろ。」 とやたらと座らせたがる。 バカの変わりようにはケンも面食らっているみたいで、いつもくっついている相方でも驚くことがあるのかと私は何だか可笑しくなった。 「王宮に行こうと思うんだよ。」 ロアン・ディールが現れてしばらくしてから先生が私たちにそう言った。 「弟子として付いておいで、ルー」 彼女の言葉にバカが顔色を変える。 「王宮なんて、部外者がのこのこ入れる場所じゃないだろ。先生が呼ばれたなら先生だけで行く方がいいよ。 俺たち留守番してるよ。 診療所も閉めるわけには行かないしさ。 ルーは体調も悪いんだし。」 まくし立てるバカの言葉を最後まで聞いてから先生はゆっくりと頭を振る。 「こないだいらしたロアン・ディールさんに頼まれてね、アンタら知り合いだろ?隠そうったってこの婆は騙されないよ。 その話の時に条件を出したんだ。 ルーも一緒でいいならミリア女王陛下の元に伺いましょうってね。 彼は笑いながら承知してたよ。 だから大丈夫さね。 まぁ、ルーが嫌ならどうしてもとは言わないが… 妊婦同士、話が合うかもしれないよ。」 先生は…どこまで何を見抜いているんだろう。 留守番、留守番と騒ぐバカを無視しながら私はしばらく考え込んだ。 ミリア女王とは苦い思い出しかない。彼女の側にはロアンに加えてアンファス・ドリューもいる。 どう考えたって行くべきじゃない。 でも…クロード様に与えられた任務のことを思えば絶好の機会。 始めからこれを狙ってここに入り込んでいたとまで思われるだろう。 気づけば頷いていた。 「行きます。お供します。先生。」 運命って本当に皮肉なものだ。
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