第二十章 調整者の苦悩

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(どういう神経してんだか…) 先生がミリア女王の診察をする様子を1歩離れた場所から真剣に眺めながらルタは半ば呆れていた。 初めて王宮を訪れた日、普段着のままの自分と先生はうやうやしく迎え入れられ笑顔で待ち構えていたのがミリア女王本人だった。 先生とミリア女王は古くからの知り合いらしく、女王はまず 「わざわざ呼びつけてしまって申し訳ない」 と先生に謝った。 「そなたも久しぶりだな。まさかこんな形で再開するとは思ってもみなかったよ。」 自分にもそう語りかけ、笑顔を向ける女王にルタは思わず後ずさってしまった。 侍女として潜り込んでいた時は顔や雰囲気は変えていた。しかしロアンにバレている以上自分があの時の侍女だと女王も分かっているだろう。 敵だと知りながら笑顔で迎え入れるなど正気とは思えない。 先生は私に向けられた言葉については何も言わず今と同じようにすぐさま診察を始め、側に控える侍女にいくつか注意するべき点を伝えていた。 その日から月に一二度こうして王宮を訪ねている。 回数を重ねるうちにミリア女王はだんだんと距離を縮めてきて突然の体調不良や身体の変化、食事や運動の事を 「そなたもそうか?」 などと聞いてくる。周期は違えど同じ妊婦として何やら仲間意識を抱いているようでルタとしては戸惑いしかない。 ロアンはその様子をニヤニヤと見ているだけだしアンファスはいつも物陰から苦々しそうに鋭い視線を向けてくる。 自分に向けられる三者三様の全てが居心地悪いことこのうえない。 自分より圧倒的に力が上な存在の彼らがいるこの場に潜り込むよう指示したクロードに対しても怒りとも悲しみとも言い難い複雑な思いが浮かんでくる。 膨らみ始めたばかりの腹部を触りながらルタはひどく重たいため息を無理矢理飲み込んだ。
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