第二十章 調整者の苦悩

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「なぜあの者を野放しにしておくのか理解できない。」 慌ただしい公務を終えて裏庭でようやく一息ついているというのにアンファスはくつろぐ様子もなく、不満をもらしている。 「ルーのことか?」 のんびりと問いかけると黙って頷く。 不機嫌そうなその顔は出会った頃が思い出されてなんだか懐かしく嬉しい。 「そなたはすっかりロアンに毒されてしまったと思っていたが良かった。 私の前ではいつもそうやって自然にしていろ」 「話を聞いてるのか?」 更に苛立った声に笑いをかみ殺していると腹部に衝撃が走る。 「あ、イタタ。」 途端にアンファスが駆け寄ってくる。 「大丈夫だ、元気が良すぎて蹴られて痛いだけだ。」 外から見ても分かるほど形を変えている腹部にそっと手を当て撫でてくれる彼を見て先ほどとは違う笑みが浮かぶ。ポコポコ蹴られる感覚は自分の中に別の存在がいることがハッキリと感じられ嬉しい。 「元気が良すぎるのも考えものだ。」 渋い顔をしてそう呟く彼に反発するように一際盛大な蹴りがくる。 「今から喧嘩するんじゃないよ、大人げない。」 アンファスの固く白い髪を撫でながら苦笑する。 「ルー、いやルタのことだが、あまり心配せずとも良い。 あれは先生のそばに居てだいぶ雰囲気が変わったしな。」 「人はそう簡単には変わらないだろう。」 甘いと言わんばかりのしかめ面。 「まぁな、だが子を身籠るというのは多かれ少なかれ変化があるものだよ。身体的にも精神的にも。それに…」 次の言葉を言えば機嫌を損ねるだろうとは分かっていたが、言わずにいられなかった。 落ち着いてきた腹部を撫でながら続ける 「それに、あの子が身籠った子はこの子の いとこ、だろう。」 アンファスは盛大に顔をしかめた。
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