第二十章 調整者の苦悩

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王宮から戻るといつも疲れ果ててしまい先生が誰かから譲り受けた麻の布張りの椅子に沈み込んでしまう。 城で使っていた天鵞絨張りのフカフカの椅子とは全く違うのに身体を包み込んでくれるような安心感があって気に入っているのだ。 いつの間にかうとうとしてしまっていると暖かい手がひたいに触れ、目を開けると先生がいた。 「無理をさせてしまっているかね?ルー」 「いいえ、先生。適度な運動になりますし謝礼も破格ですから今後の生活のためにもありがたいです。」 「金の心配より、自分の体調を一番にしろよ。」 どこからともなく現れたアイツが膝掛けを投げてよこす。 「先生に当たったら危ないでしょう。馬鹿ね。」 「うるせえ、先生はこんくらいサッとよけるよ。ありがとうくらい言えねえのかね。嫌味な奴。」 ぶつくさ言いながら外へ出ていくのと入れ違いにケンが手桶を両手に持って入ってくる。 何も言わずにキッチンへ向かう背中を眺めながら気づいてしまった。 自分がこの家でくつろいでしまっていることに。 王宮で気が張るのは当然だ。周りは敵だらけだし、監視の目も厳しい。 でも、この家にだって、あの2人がいる。 ジョナスに協力すると約束した手前、今は敵対してはいない。でも、そんなの一時の関係。ここでの暮らし自体がおままごとみたいなものだし。 そう思っていたのに、いつの間に彼らの前で無防備に眠ることができるようになったんだろう。 自分の甘さに寒気がして、両腕をさすっていると先生が全身をすっぽり包み込むようにひざ掛けをかぶせてくれる。 「思い悩む事はないよ。今、体も心も普段とは違っているんだし。 今までがどうだったとか、この先がどうなるとか考えるだけ無駄さね。」 先生は本当に不思議な人だ。リドでもないのに私と同じように人の思考が読めるみたいで、王宮にいる到底かなわないと思う彼らと同じような底知れぬ力を感じる。 「何でもお見通しなんですね。」 「なぁに年の功、年の功。」 私の両手を重ねポンポンっとさすってから先生はキッチンへと歩いて行った。 「年の功だったら私の方が上なはずなんだけどな…」 ポツリと呟いてから再び目を閉じる
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