第二十章 調整者の苦悩

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次の王宮への訪問日は延期が重なりルタは気楽な様子で診療所で過ごしていた。 先生に代わり患者から症状を聞き出すのは最近彼女の役目となっている。 言葉でうまく伝えられない患者にとって思考を読める彼女の力はかなり役に立つようだ。 そんな彼女の後ろでジョンがウロウロしている様子を見ると何でか気持ちが落ち着かない。 こちらに呼び寄せようと踏み出した時、早馬の駆ける音が耳に入った。 そちらの方向を見つめながら待つとすぐに土煙りを上げながら近づいてくる王宮の証を下げた馬に乗った使者が見えた。 人々が避けながらその行き先を見つめる中、想像通り馬は診療所の前で止まる。 俺が進み出て用件を聞いている間に準備を整えた先生とルタが表に現れた。 まるで知っていたかのような準備の良さだ。 ルタが、一歩進み出る。 「先生を連れて先に行って。私は診療所を閉めてから行くわ。」 そうして素早く自分の愛馬を引き出してくる。 「無茶な走らせ方しないで、怪我させないでよ。」 有無を言わさぬその言い方に俺は黙って頷き先生をそっと抱き抱えて馬に乗る。 ジョンが入り口から目立たないようにじっとこちらを見ている。 そちらに目を向けてもう一度頷くと再び走り出した使者に続いて王宮へ向かう。 高齢の先生にはどんなに慎重に走らせても負担になるだろうと思っていたのに 「早いね〜景色が飛ぶように変わっていくんだろうね。こんな時ばかりは見えなくて残念だよ。」 とのんきに喜んでいる。 「気を付けてください。舌を噛みますよ。」 ぼそっと注意すると、先生は手綱を握る俺の腕をポンポンっと叩く。 「なぁに、そう気を張らんでも大丈夫。」 そう言われて初めて気が急いていることに気づいた。 ライティス王の候補者が生まれる。 ミリア女王の命と引き換えになるのではとロアン様は危惧していた。 そして候補者の存在はエルディアとギルディオン様の進退にも関係してくる。 「大丈夫だよ、ケン。」 もう一度そう言ってから先生は王宮に到着するまで口を閉ざしていた。
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