第二十章 調整者の苦悩

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到着した王宮は慌ただしい空気に満たされていた。 ミリア女王陛下の私室の前にはたくさんの人間と警備兵がいて、主に男性陣が扉の外で待ち女性陣が部屋の中を忙しそうに動き回っているのが見える。 部屋の入り口あたりにアンファス様がいらして 「まだ予定日よりだいぶ早いですが、大丈夫でしょうか?」 と、近くの医師と思しき男性に詰め寄るように問いかけている。 「慌てなさんな、大丈夫だよ。」 言いながら、入り口で立ち止まった俺を追い越すように先生がゆっくりと室内に入っていく。 突然現れた先生の姿を見て、部屋の雰囲気が少し緩んだようだ、皆ほっとしたような顔をして先生がゆっくりとベッドへ近づいていくのを見守っている。 初めて先生が訪れた時とはずいぶん対応が違う。 下町の治療師に一体何が出来る? そう言わんばかりの態度だった医師たち。 粗末な身なりを嫌う侍女やメイドたち。 素性の知れない者を城内に引き入れたと憤る元老たち。 しかし先生の訪問が重なるごとに周囲の態度は変化していった。 先生は何か特別なことをしたわけではない。 誰であっても態度を変えず、誰にでもアドバイスや治療をし、何を言われても必ず耳を傾けきちんと的確な返答をしていた。 へりくだることもなく、おごることもなく。 決して動じないその態度は周囲に安心感をもたらした。 「さぁ王女様、頑張ろうねぇ。」 「今は女王ですよ、先生。」 二人のいつもの軽口が交わされて長い戦いの火蓋が切られた。
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