第二十章 調整者の苦悩

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「彼女に魔法を使うのをやめなさい。今すぐ。」 彼は驚いたように目を見開いたが、すぐにやめようとはしない。 「やめてしまったら彼女が苦しむ。」 「続ける方がさらに痛みを増やして命を削ることになる。 お腹にいる子がどんな子か分かってるんでしょう? この子は魔力が強すぎる。他の力の影響を感じれば感じるほど暴走してしまう。自分たちを守ろうとしてね。」 反発するような鋭い眼差しを向けていた彼もようやく納得したのか、今度はおろおろし始める。 「彼女には入念に何重にも守りの力をかけている。 すぐさま全てを取り除くことなど…」 私はサッと扉に目を向ける。 そこからこちらを見守っていたロアンも小さく肩をすくめてみせる。 「アンファスが全力でかけた魔法だ。私でもすぐさま解くのは難しい。」 「役立たずども。」 吐き捨てると近くに居たお貴族様が恐れ慄いたように悲鳴をあげる。 「何て野蛮な。あの女をつまみ出しなさい。」 1番気位の高そうな女が、キーキーわめき立てる。 「今は貴族の矜持より患者優先。 アンタらの大事な女王様を守りたいんだったら無礼な平民への厳罰なんて後回しにしな。」 黙らせるために敢えて口汚く言いつのれば、お育ちのいい彼女たちは呆れ果てて言葉もでないようで目を丸くしている。 「浴槽を運んできて。なるべく大きなのを。王宮なんだからそんなのいくつでも転がってるでしょ? あんたはお湯をもっと運んできて。タオルと飲み水もね、あと踏み台とクッションも。」 近くに突っ立っている人間に誰かれ構わず声をかける。 皆、女王とデウス元老をチラッと見てから大人しく従ってくれる。 「頼もしいね〜ルーが居てくれて助かるよ。」 先生はミリア女王につきっきりでマッサージをしたり声をかけてはげましたり水を飲ませたりしてくれていて、顔色は悪いものの女王も意識はハッキリしているようでこちらに小さく頷いてくる。 その目に感謝の色が見えて気まずくなった私はクルリと背を向けると部屋の環境をよくする方に力を注ぐ。
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