第四章 フレッシャー王国

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「エルディア。」 シンシア姫が嬉しそうにこちらへかけてきたのだ。 「姫さま。お一人でどうなさったのですか?」 「わずらわしい職務から逃げ出してきたの。あなたこそ一人なのね。ギルはどこ?」 姫の言葉にエルはごまかし笑いを浮かべながら 「今ごろ広間で他の方とダンスを踊っていると思います。」 と話した。姫は不思議そうに頭をかしげる。 「ギルはダンスが苦手なの。だからいつも逃げ回ってばかりいるのよ。彼が踊っているのを見たのはさっきが初めて。」 そうして嬉しそうにエルを見上げた。 しかし嬉しそうなその表情がみるみる青ざめる。エルは振り返らずに姫を抱き上げ駆け出した。 すぐ背後にあった木から誰かが飛び降りる気配がする。 「シシー様~」 前方からロアンが姫を探している呼び声がする。 「ロアン先生!」 姫が答えロアンの姿が見えるとエルは姫をおろし、彼のもとへ走らせた。追いかけて来る足音はすぐ背後に聞こえている。 エルは突然身を落とし長い足で勢いよく相手の足を回し蹴りで払い、はき慣れない高いヒールの靴を相手の喉元にあてる。 追跡者は顔を黒い布で隠しているが、その隠れた口元から小さく悲鳴がもれた。 「この方をフレッシャー王国の姫君と知っての行動か?」 エルの問いかけに相手は何も答えない。と背後にまた別の気配を感じ、エルは喉元にかけた足は動かさずにまた身を低くして背後から襲いかかろうとした相手のみぞおちに頭突きした。
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