プロローグ

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「まあ、ロイド王国の姫君の聡明さは各国でも名高いですからね。」 カロフは深くうなずきながら言った。 「ああ、そして早くからそれを見抜いていた父上もさすがだというべきだな。」 「では先代がこの婚約をむすんだのはその会議の時に?」 「ああ、三国会議のときに交わされたそうだ。」 「そんな大事な取り決めをほかのものには黙っていたのですか?」 「カロフ、この婚約はまだ国内に不穏な空気が流れていた時期にかわされたものだ。 隣国どうしでかたく結び付きを作ったりすれば、反乱を考える貴族たちがどう利用するかわからないだろう? 今こそは落ち着いているがあの頃はどんなに小さな火種も大火事になりかねなかった。」 「それで、その婚約をしっている者は限られていたわけですな」 「そうだ。知っているのは当人たちと三国の国王たちのみだ」 「しかしカルティス様、」 その時、外から騒がしい声が近づいてきた。 扉をたたく音がしてカロフが開いてやると大臣の一人が立っていた。 「失礼いたします。ロイド王国の御一行が王都にお着きになりました。まもなくこちらにお着きになります。」 その言葉を聞き、カルティスは勢いよく立ち上がると部屋を出ていってしまった。 残されたカロフはやれやれと思いながら壁にかけられた先代の肖像画をながめた。 「あなたにはいつも驚かされていましたが、最後の最後にこんな大きな隠し事をしていたとは全く。」 そっと立ち上がると肖像画に向かってにっこり微笑んで見せた。 「あなたの愛した我が妹はカルティスと入れ替わりにこの世を去ってしまい、あなたもまだ若すぎるうちにいってしまったが、カルティスがあなたたちの代わりにこの城をにぎやかにしてくれるでしょう。」 そして寂しそうに部屋を出た。 「あなたたちが生きていたら今日という日をどんなに喜んだことか…」 そんな言葉を残して。
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