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1日なんてあっという間に過ぎてしまう。クラスメイトたちへの挨拶もそこそこに家へ荷造りに帰らなければいけなく、学校の皆は何故か万歳をして見送ってくれた。サムだけは軽くウィンクをして、手をふった。
「またな…」
という言葉を残して。
サーシャは舞踏会以来口を聞いてくれない。何故かエルには分からないが、それを少し寂しく思う自分に驚いていた。カロフはどういう手を使ったのか分からないが当然のように家族の一員になっていて、サラがカシュア家当主として復帰した傍らで頼もしい補佐として信頼されていた。
サンドラおばは嬉しそうな顔を隠そうともせずにせっせとエルを家から追い出した。一生戻ってこないわけではないのに、エルのあまり多くない持ち物はほとんど家からなくなった。
「今までお世話になりました。」
門の前で頭をさげたエルにサンドラはさっさと行きなさいというように手で追い払い家の中へ戻って行った。残されたサーシャはずっとうつむいたままでエルが声をかけても顔を上げない。
「エルディア、そろそろ行かないと遅れてしまうわ。」
先に馬車に乗っていたサラとカロフが顔を出した。
「はい。今、行きます。じゃあね、サーシャ。」
背中を向けたエルの服をギュッとサーシャがつかまえた。
「え?」
振り向いたエルの頬にサーシャの濡れた頬がぶつかった。別れのキスをしてからサーシャは小さな声をかけて家の中へかけこんでしまった。
「ケガするんじゃないわよ。」
とても小さく短い言葉だったが、エルは何だかとても嬉しかった。
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