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それから一夜が明け影が一番短くなる頃、あのつなぎの男が一人、昨日と全く同じ姿で我が輩の前に現れた。唯一の違いは、右手に白いペンキが入った容器の取っ手が握られていたこと。
その男は容器を地面に置くと白い水面から突き出ている木製の柄を掴み、おもむろに我が輩にそのローラーのようなものを吸い付けてきた。クルクルとよく回るローラーは我が輩に描かれているであろう作品を無地に戻していく。ゴミをそのローラーに貼り付け掃除していくかの如く、彼は満遍なくそれを転がしていく。白いローラーの所々に残骸のように、ほんの僅かにこびり付いている赤や黄がなんとも虚しく映っていた。
男は入念に塗り終えると今度は向かいの絵画店へ足を運び、店主にシャッターを降ろしてもらうとやはり同じ様にそこに書かれている文字を消し始めた。老店主は何故か自分の店のシャッターではなく、こちらの方を眼鏡越しにじっと睨んでいた。気のせいか、柔和なはずの顔の眉間には深い深い溝が刻まれていたように思う。
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