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それからは何とも奇妙なことが我が輩の身に起きた。いや、そもそもが奇妙なことだらけだったわけだが……。
通る人通る人皆我が輩に驚愕、そして疑念の表情を投げかけていく。ある者は眉をひそめて何かを探すように。またある者は阿呆のように口を開き、大きく見開いた眼でジロジロと我が輩をねめ回す。誰も彼もが今まで我が輩に好奇の視線を送ってきた者達ばかりだ。中には、納得出来ないような表情でウロウロと我が輩の前を行ったり来たりする者までいた。
果たしてそれは我が輩に描かれていた絵画の魔力の力強さを物語っていた。烏合の集はまるで餌の残り香に群がるように、単なる通りを見守る壁に操られかの如く集っていた。
だが、それも半月も経たぬ内に人々は我が輩の絵など忘れてしまったのか、関心を示さなくなった。
日が上るか上らないかの間に、後退し始めた頭を気にしながら通勤する会社員。携帯電話に夢中になりながら片手で自転車を操る女子高生。すっかり昔と同じ。また世界は観察するだけの対象になった。
ただ我が輩の中で広がる水面に立つ波紋のような違和感だけが、以前とは何かが変わっていることを物語っていた。
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