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人が同じ立場に立てば、やれ退屈だやれ拷問だと言ったかもしれないが、生憎と我が輩は壁である。
当然のことながら我が輩はつまらないだとか、苦痛だとか、そのような感覚など持ち合わせてはいない。
ただ、何故我が輩がこのような意志や思考を持ったのかは定かではない。最も古い記憶を引きずり出しても、今とは違い街灯のない土気色の道と、その向こうの月明かりに茫々と雑草の生い茂る空き地だけが、記憶にこびり付くように残っているだけだった。
あれからどれほどの時を経たのだろう。今やガードレールが設けられ、我が輩のすぐ脇に据えられた街灯は黒いアスファルトを浮き立たせている。向かいにはこじんまりとした絵画店。両隣にはその店を押し潰そうかという無機質な金属製のビルが、とても頂上など伺い知ることが出来ない程の高さまで組み立てられていた。
いつもと変わらない景色。いつもと変わることのない日々。きっと我が輩が壁という使命を全うし、瓦礫の山と変貌するまでそれは続いていくのだろうとぼんやり思っていた。
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