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当然ながら、我が輩に快不快の感覚があるでも無し。我が輩はただ猿のような童がとる奇異な行動の一部始終を眺めるだけだった。
赤に緑、黄に青。様々な色が銀色の筒の先から飛沫をあげて踊り出る。童の手の動きに合わせてリズミカルに吹き出す色の霧。まるで躍動するように、生命の息吹き放ち舞い踊る。
突如現れた色の交響曲。もし音を聴くことが叶うならば、今にも響いてきそうな色のオーケストラ。バイオリンの高い音からコントラバスの重厚な音色。大太鼓やシンバルの豪快さ。フルートやピッコロの繊細な音質。それこそ目の前にありありと浮かび上がるかのごとく色彩の演奏は続いていった。
果たしてそれは小一時間程も続けられたであろうか。やがて満足したのかオーケストラの指揮者は演奏者達を引き下げ、喝采を浴びることもなく薄暗い舞台から静かに立ち去っていった。
それは長い記憶の中でも特に珍しいものとして留まっているが、我が輩をさらに驚かせたのはその後のことだった。
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