壁が見た風景

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 視線。  視線。  視線。  通りを歩く有象の衆が、我が輩にその好奇の眼差しを投げかけていく。  ある者は顔をしかめ汚いものを見るように。またある者は目を見張り、まじまじとその正体を掴もうとするかのように。その視線に好悪の差はあれど、殆どの者が目を向けていく。  たかが落書き。  たかが猿の遊び。  だのに、魅惑の絵画は人々を惹きつけて止まない。我が輩が知る限り、落書きというのはこんなにも人から注目されるようなものでは無い。この壁に描かれているものが人々を虜にするというのなら最早それは落書きでは無く……。  芸術――  そもそもに落書きと芸術を分かつ線引きなどあるのだろうか? 一つ抜きん出ればこの様に芸術になり、一つ間違えれば抽象画は落書きだ。  そのような答えの出ないことを悶々と自問していた我が輩を、向かいの絵画店でアビニョンの娘たちがあざ笑っていた。
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