壁が見た風景

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 相も変わらず我が輩に視線は注がれていたが、それからは大した出来事もなく、移りゆく季節の中ぬくぬくと日常を満喫していた。  あの童が来てから二回りほど季節が巡っただろうか。その日はカンカンと照りつける太陽が眩しかったのが記憶に新しい。  何やら我が輩を指差して問答をする二人の人物。一人は七三分けの髪に眼鏡、そして誰もが辟易とする暑さの中、紺のスーツにぴっちりと締め上げられたネクタイが印象的だった。もう一人は白の作業用のつなぎを着てこれまた無地の帽子をかぶっていた。袖を捲った腕をポケットに突っ込み、スーツの男の話を相槌を打ちながら聞いている。どちらも額に玉のような汗を浮かべ、長いこと炎天下に身を晒していることは明らかだった。  その不釣り合いな二人組みは通行人が一人通るか通らないかという短い間話し合っていたが、やがて踵を返すと今度は向かいの絵画店へと入っていった。  奥で同じ様なことをしているのか、硝子張りの扉にちらちらと影が見え隠れしている。やはり同じぐらいの時が経っただろうか。硝子で出来た扉が開き、二人が表に出てきた。例の老店主と玄関口で二言三言言葉を交わすと二人はビルと店の間の路地へと足を向けていった。
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