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「どこでもドアがあったらなーってたまに思うよね」
「ほう、オミトはあんなものを御所望ですか。ふーん。へー」
「な、なんでそんな言い方?チカエは欲しいと思わない?あったら便利だと思うんだけど」
「利便性は人を滅ぼすのですよ、オミトさん」
「えーっと……ごめん、どういうこと?」
「じゃあ考えてみよう。今まさに、どこでもドアを実現させる技術が確立されたとします」
「素晴らしいことだね。早く技術がそこまで進歩してくれることを期待するよ」
「異議ありッ!!」
「え、ええ……どうして?」
「さあオミトくん、更に考えてみよう。もしどこでもドアが実用化され、普及したらどうなるか」
「普及したら?」
「まず、航空関係、その業界は死滅します」
「死滅!?……ああ、でもそっか。必要なくなっちゃうもんね」
「それによる被害は多大なるものとなります。まず、空港勤務、パイロットや整備士などはほぼ職を失います」
「それは大変だ…」
「甘いなッ!!それだけでは済まないのだよ。更に影響は、飛行機の部品を作る町工場などにも広がります。ちなみに、旅客機の部品は300から600万ほどあるらしいっすよ」
「で、でもさ。飛行機の代わりにどこでもドアが誕生したってことは、それに伴って新しい仕事とかも出来るんじゃないかな」
「それは違うよっ!……問題は更に深刻です。まず航空を例として出しただけで、同様のことは陸海空全てて発生するからね」
「電車とか、船とかもそうか……」
「航空をまず挙げたのは、リスクと費用が最も膨大だからってのもあるんだけどね。車なら個人的趣味として残る可能性はあるかもしれないけど、気軽に飛行機は買えないでしょ。セスナとかならともかく、ジャンボ機はほぼ確実に絶滅するよね」
「ううむ」
「それにCAさんとかならまだ別のサービス業に乗り換えられるかもしれないけど、飛行機にしか使われない特殊なパーツを作ってた町工場なんかは、絶望的だよね」
「そう考えると、飛行機のパイロット、電車の運転士とか、そういう技能も無駄になっちゃう訳か……」
「こうして多くの人が路頭に迷うことになる訳だけど、それでもオミトはどこでもドアが欲しい?」
「うむむむ……そう言われると、答えに困っちゃうね」
「まあ、私なら迷わず欲しいと答えるのだけど」
「えええええ……」
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