ファイル #1 プロローグ

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心地よさが暑さに変わりゆく時期……1人の黒髪の少年が、まるで典型的な“朝に余裕のある夫”のように新聞を広げ、ソファーでくつろいでいた。 見出しにはデカデカと「俳優○○、できちゃった婚!」や「△△移籍か!?」など、芸能人やプロ野球選手の平和な記事が書かれている。 と共に、あまり嬉しくないニュースも取り上げられている。 放火、連続殺人、強盗、etc……少年は無表情でそれらを読み上げていく。 ふと、一つの記事が目に止まった。 『ひったくり犯、殺人鬼に変貌か――未だ見つからず』 「ひったくり犯から殺人鬼、ね……」 見出しは地方で起こった事件のせいか、他の記事よりは小さい。だが、事件が起こった場所が市内――しかも近隣だったことから、自然と目が惹かれていた。 記事によると、ひったくりを5回成功した犯人と同一人物と思われる人間に6人目(同一犯だった場合の計算)の被害者が刃物で右腕を斬りつけられてバッグを盗まれたとの事。幸い、被害者は軽傷で済んだようだが、警察は色々と調査を続けているらしい。 「人を殺してから殺人鬼って言いなよ……」 少年はポツリと言葉を吐いた。 「それでは遅すぎるよ、英介君」 ぱ、と新聞の上から顔を覗かせ、1人の男が言った。短い黒髪に、優しそうな黒い瞳、少し猫背気味な男は、大体30代後半といったところ。 英介と呼ばれた彼――いや、遠回りの説明はよそう。彼、門川 英介は、少し不機嫌そうにその顔を見上げた。
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