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因みに佐伯にはきちんと妻と娘がいて、英介達が住むマンションからは電車で3駅程の距離がある。
それでも週に最低3日は自宅に顔を出しているという状況で、そこには佐伯の真面目さと家族への愛が伺える。
「……ごちそうさまでした」
「ご馳走様」
昼食を食べ終わり、2人はいつものように手を合わせて農家の人に「今日もありがとう」と感謝する。
「暇ですね……」
ごちそうさまを言ってすぐに、食器も片付けずに英介は横になった。
床にそのまま体を倒す。
「ここの所、英介君に依頼する程の依頼も無かったしね」
食器を片付けながら、佐伯は英介の言葉に相槌をうつ。
暇な時間……それはやる事がある者にとっては幸せな一時であり、やる事が全く無い者にとっては地獄でしかない。
まだ6月に入ったばかりで比較的過ごしやすい時期ではあるが、それは彼にとってどうでもいいことだ。依頼が無ければこうやって暇を持て余すことしかないのだから。
英介はもう一度新聞を読もうとゆっくり立ち上がった……その時だった。
ピンポーン! ピピピンピピピンポーン!
急いで何度も押したのか、へんてこなチャイムが部屋の中に流れた。
「はいはい、今開けます」
ろくにドアの向こうを確かめもせず、佐伯はドアのチェーンを取ってカギを開ける。
(「これで急に刺されたとしても笑えないな……」)
新聞の一面を見、英介は思った。
幾ら連続でチャイムを鳴らされたからといって、確認せずにドアを開ける者はただの馬鹿でしかない。故に、扉の向こうが殺人鬼であったとしてもそれは被害者の自業自得なのである。
そんなことを思っていると、玄関から「ドサッ」という何かが勢い良く倒れる音が聞こえた。
その直後、
「わああぁぁぁ!」
という、若干情けない叫び声が英介の耳に届いた。
言わんこっちゃない……英介はまさかと思いながらスポーツタオルを持って玄関に移動した。
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